「流星群」

 

脚本:四香

原作:九香

 

(約10分)

 

登場人物:洋平♂、夏海♀

 

(Mはモノローグ)

 

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洋平M

「学生の頃、俺は海のそばに住んでいた……。

古い線路沿いにある、中庭から砂浜に降りることが出来る、

シャレた小さな病院が目印になっていた。

そして、この海岸沿いの道は、その頃 飼っていた犬の散歩コースだった。

俺は毎朝、愛犬と一緒にこの砂浜を走っていた。

そう……あの晴れ渡った初夏の日も……。」

 

 

洋平「おい、コロ!待ってってば!!砂浜は足がとられて疲れるんだから?」

コロ「ワン、ワン!」

洋平「はぁ、ったく、元気一杯だな?。コロには勝てねぇなー」

コロ「ワン、ワン!」

洋平「コロ、ちょっと休ませろ! ふうっー」

 

洋平「ああ、雲ひとつない青空だなー」

 

夏海(少し遠くから)「元気で可愛いわんちゃんね」

洋平「えっ?誰?」

夏海「こっちよ」

 

洋平M

「まるで空から声が聞こえた……そんな気がした。

俺が寝転がったまま、声のしたほうへ目を向けると、

病院の中庭に、白い服を着た美しい女の人が立っていた。

歳は俺より一回り上か……

まるで天使……俺にはそう見えた……」

 

夏海「こんにちは。コロちゃん、いつもすごく元気ね」

洋平「えっ?コロを知ってるの?」

夏海「ええ。毎日、この時間に散歩して、いつもこの窓の下で、おい!コロー!って」

洋平「それは、こいつが言うことを聞かないから」

コロ「ワンワン!」

洋平「って、おい!コロ!もう行くのかよ!ったく。じゃーね、おねえさん」

夏海「ねえ、ちょっと待ってよ」

洋平「えっ」

夏海「私、夏海。夏の海と書いて、な・つ・み。あなたのお名前は?」

洋平「お、俺は……洋平……」

夏海「コロちゃんと洋平君ね。ねぇ、お願いがあるの。毎朝の散歩ついでに、私の話し相手になってくれない?」

洋平「話し相手?まぁ、暇だから別にいいけど」

夏海「ありがとう。洋・平・君」

洋平「でも……ま、毎日は、無理だかんな」

夏海「ふふふ、時間のある時だけでいいわよ」

洋平「あ、ああ……」

 

洋平M

「次の日から俺は毎朝、走って砂浜へ向かった。

アルバイトだけで退屈だった俺の日常が変わった……。

まだLINEなんて気の利いたものがなかった時代。

朝が来るのが待ち遠しい毎日……

まるで夢のようなひと夏だった……」

 

 

洋平「でさー、もう時間が無いっていうのに、自転車の鍵が見当たらないんだよー」

夏海「それで?」

洋平「仕方がないからさー、散歩がてら歩いて行こうと思ってコロを見たら、こいつがくわえてるんだよ、鍵を!」

夏海「コロが?あはは!」

洋平「そうなんだよ?」

 

 

夏海「洋平くん、最近、朝早いねー。今までより1時間くらい早いんじゃない?」

洋平「いやー、コロが起こしに来るんだよ。早く散歩連れてけって。俺はホントはもっとゆっくり寝てたいんだけどねー」

夏海「なんだ、そうなの。てっきり私の話し相手に来てくれたんだと思ったのにー」

洋平「いやー、ホントに世話が焼けるんだ。コロは。なあ、コロ」

コロ「ワンワン!」

夏海「あら?コロ、嘘つけ!って言ってるわよ(笑)」

 

 

洋平「中庭から降りてこないよな、いつも」

夏海「うん。中庭から出ちゃいけないって、お医者様に止められてるの……」

洋平「ふぅ?ん、そうなんだ」

夏海「私、朝の海、好き。コロと一緒に走りたいなぁ?。あ、もちろん洋平君も一緒にね」

洋平「なんだ、俺はオマケかよ(笑)」

 

 

夏海「……今夜、流星群 来るね」

洋平「……ああ、そうだな……」

 (しばらくの間)

洋平「見に行こうか」

夏海「えっ?」

洋平「今夜8時、この先の喫茶店で……無理かな?」

夏海「病院、うまく抜け出せるかな……」

洋平「無理だったら構わない。俺は喫茶店でずっと待ってるから」

夏海(しばらく考えて)「うん、やってみる。でも行けなかったらごめんね」

洋平「ホント? でも無理するなよな。病人なんだから」

夏海「うん、ありがと」

 

 

洋平M

「俺は、一時間も前から喫茶店で夏海さんを待った。

夏の間に貯めたアルバイト代を全部叩いて買った指輪を握りしめて……。

でも彼女は……夏海さんはとうとう来なかった。

俺は……喫茶店でいつまでも星を眺めていた。

ひとりで……」

 

 

洋平M

「その日以来、あの中庭から夏海さんはいなくなった。

そのあと、看護師さんに聞いてわかったんだ……。

あの最後の日の午後、夏海さんは血を吐いて倒れた。

危険な状態だったため、すぐに大きな病院に緊急搬送された……。

夏海さんの病気は骨髄性白血病だったそうだ……」

 

 

洋平M

「気のせいか、あの晩見た流星群は不思議なほど明るく輝いていた……。

もしかすると……夏海さんは、俺に精一杯のさよならを言ってたのかもしれない……」