【優柔不断な王子様】2:1台本(約10分)  作:原伊達


<キャスト>
 コン  ♀

 シュウ ♂

 アキ  ♂ ※セリフ数少なめ

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SE:蝉の音


コン「今年はどうするの? 花火大会」


シュウ「そりゃ行くさ。

    毎年の楽しみだし、何より今年は今までの二倍、

    打ち上げるらしいじゃないか。

    一昨年、間違えてバイト入れて見れなかったの、

    今でも後悔してるんだからな」


コン「あっはは。まだそれ根に持ってたんだ?

   女の子じゃあるまいし、かっこよくないよ」


シュウ「今年も一緒に行ってくれるんだろ?コン」


コン「どうしよっかなあ。今年は受験だしなあ」


シュウ「秋前のたかだか数時間で受験が左右されるくらいなら、

    今頃東大の倍率はおそろしいことになってるっての」


コン「シュウはどこいくんだっけ?」


シュウ「決まってない」


コン「いっつもそれ。いい加減進路決めたら? 二学期始まるよ?」


シュウ「余計なお世話だ。アイス溶けてるぞ」


シュウ(心の声)『ああ、もう……狂わせやがって……』


コン「ここの花火見れるのって今年が最後だもんね。

   しょうがないから行ってあげるか」


シュウ「コンは鳥取だっけ。なんだってあんなところ選んだんだよ」


コン「もう家族で引っ越すし、

   あとあそこでしか学べないことがあるから?」


シュウ「何で疑問形だよ」


コン「なんでだろね、面接練習?」


シュウ「だから訊くなって」


コン「ごめんごめん。なすび地蔵に17時でいいよね」


シュウ「問題ない」


コン「気取っちゃって」


シュウ「気取ってない」




SE:キリギリスの音(夜だとわかる音)


アキ「で? 今日も進展無しか」


シュウ「はー……うるさい。

    今日はそういう雰囲気じゃなかったんだよ」


アキ「いっつもそれだ。いい加減覚悟決めたらどうだ?

   二学期始まるぞ?」


シュウ「同じようなセリフを一日に二回も聞くなんてな……」


アキ「なんか言ったか?」


シュウ「言ってない。花火大会に誘えただけましだと思ってくれ」


アキ「シュウ、ここらが潮時だと思うぞ。最後の花火大会だ。

   もしかしたらあっちも特別な思いがあるのかもしれない。

   それに、普通自分に彼氏がいないからって、

   毎年大事な花火大会に一緒に行ってくれると思うか?」


シュウ「脈は……あると?」


アキ「二十歳のチワワ程度にはな」


シュウ「アキ……お前良い性格してるな」


アキ「よく言われる。しっかし、コンちゃんも、本当に気が長いよなあ」


シュウ「どういうことだ?」


アキ「いや、普通待ってくれないぜ? 優柔不断な王子様のことなんて」


シュウ「コンが待ってる? 何を? ていうか馬鹿にしてるのか?」


アキ「これが馬鹿にせずにいられるか。

   お前は一回脳みそを洗った方が良いかもしれない」


シュウ「ひどい言われようだ」


アキ「お前はいつもそんな感じだったよな。

   さっきも言ったけど、潮時だ。

   ここいらで自分の在り方を見つめなおしても罰は当たらないぜ?」


シュウ「アキがそう言うなら、そうなのかもな……じゃあな」


アキ「おう、健闘を祈るよ」




SE:お祭りの音


コン「シュウー! こっちこっち! 

   今年は金魚柄だよ。どう、似合うでしょ」


シュウ「そうだな。今年も綺麗だ」


コン「へっ? あーえっとー。

   な、何柄にも無いこと言ってんのよ。ドキッとしたじゃない」


シュウ「いや、まあ、あれだ。血の迷いだ」


コン「それはそれでひどくない?」


シュウ「いいから行くぞ」


コン「あ、待ってよ歩きにくいの知ってるでしょ」


シュウ「もういい年なんだから、それくらい慣れろよ」


コン「あーあ、いつからだっけ、シュウが手を握ってくれなくなったの」


シュウ「そんな事言うやつだったか? コン」


コン「さあ、どうだろ。

   アキ君から変なメッセージが届いたせい、かなー」


シュウ「変なメッセージって、どんな」


コン「い、いや教えない教えない!」


シュウ「はあ? 何だよそれ」


コン「教えないったら教えない!」


シュウ「はあー、全くなんだってんだよ。

    あ、ちょっなんだよ急に手つないできて」


コン「ほ、ほらっ、いつもの場所、見えてきたよ!」


シュウ「あ、ああそうだな…………。

    あ、あと十分くらいか。腹減らないか? 

    何か買ってくるぞ」


コン「いらない」


シュウ「の、喉はどうだ? 大分歩いただろう」


コン「いらない」


シュウ(心の声)『どうなっている。どうなっているんだ。

    状況が読めない。事態が把握できない。

    いや、落ち着け。状況はこうだ。

    長年かけて見つけた全く人のいない穴場に、

    俺の好きな女の子と、手をつないだ状態で、

    二人きりだという事だ。

    分かりすぎてめまいが起きそうだ……。

    もうこうなったら、言うしかないのか……?』


シュウ「コ、コン」


コン「何よ」


シュウ「えっと、あ、あ……」


コン「あ? 何?」


シュウ(心の声)『言うんだ俺。貴女の事が好きでした、と。

    そうすれば事態は前に進むんだ。

    俺たちは一歩踏み出せるんだ!』


シュウ「あ……あ……アキからなんて言われたんだ?」


コン「もったいぶってそれ!?」


シュウ「すまない……」


コン「……手よ」


シュウ「は?」


コン「だから手よ。

   シュウと手を繋げば、シュウから本当の気持ちが聞けるって

   言われたの」


シュウ(心の声)『あいつはなんてことをしてくれたんだ……! 

    俺は俺のテンポでやるってのに!』


シュウ「で、でもなんで俺の本当の気持ちなんてなんで知りたいんだ?」


シュウ(心の声)『ああ、我ながら最低の一言が飛び出たものだ……。

    これじゃあ帰られても文句は言えないな……』


コン「最後だから!」


シュウ「え?」


シュウ「最後って、何がだよ」


コン「花火大会に決まってるでしょ」


シュウ「いやいや、そもそも家族で引っ越すとはいえ、

    こっちに帰ってくることくらいできるだろ?」


コン「シュウ、もしかして知らなかった? 

   ここの花火、今年で終わりなんだよ」


シュウ「え?」


コン「だから今年は打ち上げ数二倍なんだよ」


シュウ「そ、そんな……」


コン「ねえ、シュウ。シュウから言ってくれるよね? 

   かっこつける絶好のチャンスを与えてあげるんだから、

   しっかり決めてよね」


コン「今見えてるものは何?」


シュウ「俺が見ているのは……コン、お前だけだ。俺と――――」



SE:花火の音


コン「ありがとう。やっと言ってもらえたね。あー長かったなあ」


シュウ「ああ、本当に長かった」


コン「ねえ、シュウはどこに行くの?」


シュウ「コンの行きたいところに行くさ」


コン「アハハ、かっこいいよ」


シュウ「はー、全く、ずるいよコンは。

    結局俺たちはアキに一枚食わされたってことなんだろうな。

    はぁ~」


コン「あ、もう、またため息。幸せが逃げるよ?」


シュウ「ため息程度で失う幸せなんて、必要ない。

    お前は俺がため息をついたら、居なくなるのか?」


コン「うわ、今のはキザすぎる」


シュウ「お前なあ……」



end