カフェ「セラピスト」マスター女性版

 

cast

 マスター ♀

 杏利    ♀

 みゆき   ♀

 レイ    ♂

 

レイナレ ここに、一軒の喫茶店がある。
     店の名は「カフェ・セラピスト」。
     店の大きな窓からは海が一望できる風情のある喫茶店である。
     さて、今日のお客様は・・・

 音)カランカラン

マス いらっしゃいませ

マスナレ 女性は本日のおすすめコーヒーを注文した。
     黙って窓の外を眺め時に涙を浮かべながら過ごしていた。
     私が女性と言葉を交わすようになったのは、
     初めての来店から二週間が過ぎた頃だった。

マス お待たせいたしました。「タンザニアキリマンジャロ」です。
女性 マスターの淹れてくれるコーヒーを飲むと、不思議と元気になります。
   なにか秘密があるとか?
マス フルーティーな香りがアフリカ産の豆の特徴です。
   上手に抽出して果実感をしっかり出すことができれば、最高の一杯になるのよ。
女性 そうなんですね。
マス アロマ、、、お好きかしら?
女性 え?アロマ?・・・ラベンダーの香り・・・かな。
マス ラベンダーは心を落ち着かせリラックスさせてくれる。
女性 えぇ。ベッドの横にラベンダーのオイルを置いて寝ると、よく眠れるわ。
マス それが「アロマセラピー」ね。実はコーヒーにもそれが当てはまるの。
女性 ラベンダーとコーヒーとアロマセラピー?
マス 香ばしいコーヒーアロマを胸いっぱいに吸い込む。
女性 コーヒーアロマ?お花とかフルーツの香りの?
マス コーヒーは「飲む香り」よ。
女性 飲む香り?
マス リラックス作用の「ラベンダー」、
   元気な気持ちになれる「オレンジ」、
   高貴な気分になる「イランイラン」、
   ウイルスに負けない身体をつくる「ゼラニウム」。
   お花や果実のイメージよね。
   「コーヒーアロマ」には癒しの効果があるの。
女性 (ゴクッ)美味しい。うん、コーヒーの香りで癒されます。
マス コーヒーアロマ、感じたかしら?注文を受けてからコーヒー豆を挽いてドリップするの。
   ここはわたしの魔法の腕ね。
   でもね、コーヒーアロマの成分は短命ですぐに消えてしまう。
   まるで桜の花びらが散るかのようにね。とても希少で限定的な条件でしか味わえないの。
   人生と同じね。
女性 人生・・・。
マス そう。人生ね。
女性 (ゴクッ)マスター、明日もコーヒーアロマの話を聴かせていただけますか。
マス もちろんよ。

女性ナレ それから私はマスターのコーヒーアロマの話を聴いた。
     私の名前は「杏利」。19歳。
     一年前に祖父母が亡くなり、現在は母と二人暮らし。
     血のつながりはない。
     でもとってもよくしてくれる。母が本当の親子ではないと話してくれたのが二週間前。
     母は穏やかにこう言った。
     「だまっていてごめんね。親子の関係はこれからも変わらない。
     だけど、杏利が本当のお母さんに会う権利はある」と。
     ほんとうのお母さん・・・。
     どうしたらよいのか、心の整理がつかなかった。
     そんなときにここ「カフェ・セラピスト」に出会った。
     ううん、きっと誘(いざな)われた・・のかな。

 音)カランカラン

マス いらっしゃいませ。
杏利 こんにちは・・・。
マス ん?杏利ちゃん?
杏利 あ・・・
マス うん。
杏利 マスター、私・・・
マス うん。
杏利ナレ 私はマスターのコーヒーを飲みながら、なんだか心の
     花びらがふわ~っと開いたような気がして。
     気がついたら母の話をしていた。
マス そう。
杏利 ほんとうのお母さんに会ってみたい・・・。
マス 杏利ちゃん、ここでしばらく働いてみない?
杏利 え?
マス コーヒーアロマが必要?
杏利 はい。
マス 最近忙しくて人手が足りないのよね。夜は特に忙しくて。
   手伝ってくれないかしら?
杏利 はい!
マス ありがとう。助かるわ。いつからにしよっか。
杏利 いま!・・・から。
マス いまから? うふ。うん。じゃあ自分の飲んだコーヒーカップの片付けが初仕事よ。
杏利 はい!

 音)カランカラン

みゆ マスター、こんばんは。
マス あら、みゆきちゃん、いらっしゃい。
みゆ レイはまだ来てない?
マス まだよ。
杏利 いらっしゃいませ。
みゆ あれ?マスター、新しい子?
マス 今日から働いてもらうことになったの。杏利ちゃんよ。よろしくね。
杏利 杏利です。よろしくお願いします。
みゆ 杏利ちゃんね、私はみゆき。夜はたいていここに来るわ。
   マスターのコーヒーのファンよ。もう何年も通っているわ。よろしくね。
マス コーヒーのファン?(クスッ)
みゆ マスターにはお見通しね(笑) いつものウイスキーお湯割りで。
   あ、サラミも食べたいな。
マス 杏利ちゃん、用意してくれる?
杏利 はい!
みゆ 杏利ちゃん、かわいい子ね。

 音)カランカラン

レイ マスター、こんばんは。
マス いらっしゃい。
レイ みゆき、お待たせ。
みゆ お疲れさま。忙しかった?
レイ あぁ。また小言を受け止めてあげてた。
みゆ あは。吐き出させるのも必要よね。
マス ふたりとも、ほんとうに仲が良いわね。うんうん。いいね。
みゆ マスターに出会ってから、私たち変わったわ。ね、レイ。
レイ あぁ、そうだな。以前は言い合いが多かったもんな。
マス レイくんの愛情の深さがみゆきちゃんに伝わっているのよ。
杏利 お待たせしました。
マス 杏利ちゃん、こちら、レイくんよ。
レイ 新しい子?
マス えぇ。今日からよ。
レイ みゆきの彼のレイです。よろしくね。
杏利 はじめまして、杏利です。よろしくお願いします。
マス 杏利ちゃん、ふたりとっても仲良いでしょ?
杏利 はい。
みゆ 以前は言い合いばかりだったのよ。
杏利 え?
レイ だな。マスターのおかげ。
マス 素直に「ごめん」が言えない二人だったわね。
杏利 そうは見えないです。
レイ あ、俺はグラスワインで。
杏利 赤ですか?白ですか?
レイ 杏利ちゃん、覚えておいて。情熱的な俺は赤しか飲まない。
みゆ なに気取ってるのよ。
レイ やってみた。
みゆ 残念。
レイ やっぱり?
みゆ うん。
マス 赤ね。かしこまりました。杏利ちゃんをよろしく。
杏利 あ、マスター、わたしが、
マス いいのよ。ふたりと話してて。
   そうそう、杏利ちゃん、みゆきちゃんは作家さんなのよ。
杏利 作家さん?
レイ 俺はみゆきの編集担当をしているんだ。
杏利 みゆきさん、どんな作品を?
みゆ 主にミステリーを書いているの。
杏利 ミステリー?
みゆ 作品作りに行き詰った時やキャラクター設定で頭がこんがらがった時は、
   必ずマスターのコーヒーを飲む。マスターのコーヒーを飲むと
   スーッと頭がすっきりして、どんどんアイデアが生まれてくるの。
   不思議なことにね。
   まさにマスターはセラピストね。
レイ コーヒー?みゆき先生、お酒の正しい飲み方の間違いでは?
   お酒の激しい~飲み方の脚本、とか。
みゆ あぁ、それもいいわね~。レイくん、参考にさせてもらうわ。
レイ 役にたった感じ?
みゆ もちろん!
レイ 俺さ、みゆきのナイトでいたいんだ。
みゆ ナイト?
レイ あぁ。
みゆ 嬉しいな。
レイ よし、もっと頑張るぞ。
マス 微笑ましいわね。はい、赤ワイン、お待たせ。
レイ ありがとう、マスター。
マス 言い合いばかりだったあの頃が懐かしいわ。
杏利 そんなに言い合いばかりだったんですか?信じられない。
マス 仕事のストレスもあって、言いたいことを言い合う。
   それはそれで吐き出す時間が必要だったんだと思うわ。
   でもね、ふたりには深い愛情があった。
杏利 そんなに変わったんですか。
みゆ マスター、ちょっとやってみていいかな?
マス いいわよ~。
みゆ レイ、もう一回入って来てくれる?
レイ はいよ。

 音)カランカラン
レイ あ~、疲れた。
みゆ 遅い。
レイ 仕方がないだろ~、仕事なんだから。
みゆ 「みゆき、遅くなってごめん」とか言えないわけ?
レイ なんだよ。
みゆ いっつも仕事仕事。
   忙しいのはわかるけど、付き合いばかりで
   約束した時間に一度たりとも来たことないじゃない!
レイ 立場が違うんだから仕方ないだろ。
みゆ 勝手に線引きしているのはそちら。私たち作家はそんなこと考えてないわよ。
レイ はいはい。作家様はお偉いですからね~。
みゆ なによ、その言い方。
レイ なんだよ。
みゆ はぁ・・もはや情で一緒にいてやってるって感じ。
レイ いてやってる?ふっ、強がっちゃって。
みゆ なによ。
レイ なんだよ。
みゆ 愛してる、って言葉も聴いたことないし。
レイ 恥ずかしくて言えないんだよ。
みゆ 愛を感じたい時があるのよ。
レイ なんだよ。
みゆ 色っぽく言って欲しいな~
レイ うっ・・・ウイスキーをお湯割りにする奴なんていないぞ。
みゆ 体が温まるのよ。代謝も上がるし。
   代謝が上がって悪いこと何にもないのよ?ミヤネ屋で言ってたもん。
レイ お前、ワイドショーとか見る時間があっていいよな~
みゆ なにそれ。わたしが暇だって言いたいの?
レイ 自由な時間があって羨ましいなぁ先生。
みゆ それ、遠回しに「暇人はいい」って聞こえるけど~?
杏利 別人みたい・・・
マス ちょっぴり素直じゃなかった時があってね。
   でも思いやることを覚えたら、こんなに変わっちゃったの。
みゆ レイ、ありがとう。
レイ こちらこそ。
みゆ 杏利ちゃん、マスターのおかげなのよ。
マス レイくんが本物の愛と優しさを持っていたからよ。
みゆ そうね。レイのおかげ、もあるわね。
レイ みゆきが好きだからな。
みゆ うん。
杏利 本物の愛と優しさ・・・
みゆ コーヒーを飲むでしょ。するとね、自然と「ごめん」の言葉が出るの。
   コーヒーだけじゃないわね。
レイ お酒とおつまみと。
みゆ それから。マスターが。ね。
レイ あぁ、マスターが見守ってくれているから、言い合いができてたんだ。
みゆ うん。
杏利 コーヒーアロマとセラピスト・・・
みゆ わたしたちがこんなに穏やかになれたのは
レイ マスターのおかげ、だからな。
マス ふたりとも。
   今日はこんがり焼いたバケットにレバーペーストを乗せて、どうかしら?
レイ いいですね!ワインに合いそう。
みゆ かぁ~。やっぱりお湯割りにチーズサラミは最高ね。
マス みゆきちゃん、ウイスキーお湯割りに、レモン、入れてみない?
みゆ え?レモン?
マス そう、レモン。
   柑橘系はアロマでいうと、元気な心になるの。
   ビタミンCは美肌にもいいしね。
みゆ そうね、ビタミンCはとりたいわ。でもわたし、酸っぱいのは苦手よ。
マス はい、どうぞ。
みゆ (ゴクッ)おいしい!
マス さっぱりしていいでしょ?
   柑橘系のアロマの多くは、気分をリフレッシュしたい時にピッタリね。
   頭を切り替えたり、気分をシャキッとさせたい時にライムやレモンが最適。
   そうそう、冬至の柚子にも意味があるのを知ってる?
   柚子はね、血行を促進して身体を温めてくれる効果があるの。
   昔からの言い伝えや風習にはアロマ効果が立証されているものも多いのよ。
みゆ さすがマスター!
マス コーヒーを通じて、関わるみんなが癒やされてほしい。
   私も癒されるから。
みゆ マスター・・・
レイ 昔、なにかあった・・・とか?
マス あ、ううん。
みゆ マスター・・・
マス みんなが楽しければ私もたのしくなるわ。
レイ マスター・・・
マス そうだ、今日は新メニューがあるの。試してみない?
レイ 新メニュー?
マス ふわふわタマゴのサンドウィッチ。
みゆ ふわふわタマゴ!
マス 気に入ると思うわ。
みゆ 食べたいな。
マス ちょっと待っててね。(キッチンへ)
レイ ・・・みゆき、マスター。
みゆ うん、そうね。
レイ あぁ。
杏利 ん?みゆき・・さん?レイ・・さん?
レイ マスターに癒しを。ね。
みゆ うん。癒しを。ね。
マス お待たせしました。ふわふわたまごサンドウィッチ。
杏利M 八枚切りのパンにふわふわタマゴ。
杏利 ・・・これ・・・似てる・・・
みゆ うわー、美味しそう。
レイ だな。
みゆ なんだか懐かしい感じがする。
レイ マスター、これ、懐かしの~ふわふわタマゴ、だったりして?
マス するどいわね、レイくん。
   杏利ちゃんに会ってから、ちょっぴり昔を思い出すことがあってね。
みゆ 杏利ちゃんに会ってから?
マス さ、食べてみて。
レイ マスター、これ・・・
マス 昔、よく作っていたのよ。
レイ いつごろ?
マス 15~6年前かな。食べさせたい人がいてね。
杏利 16年前・・・わたし、3歳。
みゆ 私たちが中学生くらいね。あの頃、おしゃれな食べ物なんてなかったわ。
マス 私も歳をとったわね。昔は見た目より質より、量、なところがあったからね。
レイ ジャンボパフェ、ジャンボらーめん、ジャンボ餃子!
マス そう。でも私ね、当時は栄養価の高いタマゴを良く使っていたわ。
みゆ たまごのたんぱく質は良質だって聴いたことがあるわ。
マス それと・・・食べてくれたときのあの喜ぶ顔が見たくてね。
レイ マスター。その話、もっと聴きたいな。
みゆ 今日はほかにお客さんいないし。
マス たまには早じまいしてもいいかな。三人のおかげね。
   なんだか心がリラックスしているわ。
   杏利ちゃん、表の看板を片付けて来てもらえるかな。
杏利 あ、はい。
みゆ コーヒー、飲みたくなっちゃった。
レイ そうだな。
マス コーヒーで乾杯?
みゆ いいね!
マス とびっきり美味しく淹れるわね。
レイ (みゆきに)なぁ、みゆき。
みゆ (レイに)うん。癒し、ね。
マス はい、コーヒー。
みゆ う~ん、良い香り。
マス エチオピアコーヒー。杏利ちゃんもどうぞ。
杏利 はい。
みゆ では!乾杯!
三人 乾杯!
マス エチオピアのコーヒー豆はね、世界最高の香りを誇ると言われてるのよ。
   特徴はジャスミンのような香りと強い酸味。
   ジャスミンは眠りを誘うの。
みゆ この時間に最適ね。
レイ そうだな。お酒で酔って寝るよりは、こういう良い香りに包まれて眠りにつくっていいな。
杏利 マスターのコーヒーアロマはまさにアロマセラピーです!
   どんな人が豆を作っているのかなぁ。
マス アフリカよ。
   素晴らしいコーヒーをつくるためには素晴らしいコーヒー豆が必要。
   その栽培はみんなが思っている以上に過酷で重労働なの。
   そのうえ、それに見合った報酬を受けていない。
   アフリカでは深刻な問題になっているわ。
   一杯800円で生産農家に入るお金は1円にも満たない。
レイナレ マスターは16年前、やり場のない悲しみ、
     そして苦しみと憎しみから逃げるように旅に出ました。
     アフリカのとある国にたどり着き、コーヒー豆栽培の実情を知った。
マス 現地のかたに尋ねたの。
   「大変な思いをしてコーヒー豆栽培をしているのに
   それに見合った報酬を受けていないなんて、やりきれない、と思わないのか。」とね。
   すると彼らは
   「自分たちが作ったものを美味しいと言って喜んでくれる人がいる。
   これ以上の報酬はありません。」って。
   ショックだったな。
   まるで雷に打たれたような衝撃。
   わたしも喜ぶ顔が見たくて作っていたんだって。
   なんかね、心が軽くなったの。
   アフリカの大地のように広い心を持ちたい。
   許すことを忘れていたわ。
レイナレ マスターは日本へ戻りコーヒー店を開いた。
     コーヒーの味と香りがいつまでも許せる心を思い出させてくれる。
     自分を癒やしてくれる。ずっと。
みゆ マスター、ありがとう。
マス え?
レイ 俺たちが癒された。
みゆ うん。
レイ マスターはいつもほがらかでいつも優しくて。
みゆ わたしとレイがこんなに穏やかに仲良くしていられるのは
   マスターのおかげ。
レイ マスター、辛かったよな。
杏利 マスター・・・
レイナレ マスターのご主人が事故にあった時、夫の両親が娘を連れて行ってしまったという。
     その後、離婚が決まり、マスターは傷心しきってアフリカへ行った。
     その間に再婚をしたそうだ。
マス しばらくは何もすることができなかったわ。
   でもね、アフリカでの出来事がすべてを許すことを教えてくれたわ。
   それとね、コーヒーから学んだ大切なことがあるわ。
    心が変われば  態度が変わる
    態度が変われば 行動が変わる
    行動が変われば 習慣が変わる
    習慣が変われば 人格が変わる
    人格が変われば 運命が変わる
    運命が変われば 人生が変わる
   ってね。
杏利 心が変われば、人生が変わる・・・
マス 今どうしているのかなぁ。立派な大人の女性になっているだろうな。
みゆ 会いたい、とは思わないの?
マス 本人から申し出があれば会いたい、かな。
   彼女にも新しい家族があるだろうから迷惑はかけたくないな。
杏利 会いたいです!
みゆ え?
杏利 私は母に会いたいです!
みゆ 母?
レイ どうゆうこと?
マス 杏利ちゃん、今のお母さんはほんとうのお母さんじゃないの。
杏利 私は会いたい。もちろん迷惑をかけたくない。
   でも・・・会いたい。
レイ そうだよな。
みゆ 血のつながりは呼び合うっていうじゃない?
レイ 目には見えない何かが引き合う、ってね。
みゆ マスター、娘さんのことで覚えていること、なにかない?
マス ・・・ホクロ。私と同じところにホクロがある。
レイ どこ?
マス 左肩にふたつと、左足の甲にふたつ。
   わたしと同じところにホクロがあるの。親子ね・・・。
みゆ 体のホクロかぁ。
杏利 ヒック、ヒック。
レイ 杏利ちゃん?あん・・り・・・ちゃん?
みゆ 杏利ちゃん?
レイ (みゆきに)おい、みゆき、杏利ちゃん泣いてるぞ。
みゆ 杏利ちゃん、大丈夫?
マス あぁ、ごめんね。杏利ちゃん。
杏利 そう・・じゃ・・・なく・・・て
レイ そう・・じゃ・・・ない?
杏利 あるんです。
みゆ ある?
杏利 左肩にふたつと左足の甲にふたつ。あります、ホクロ
マス え・・・
杏利 ほら、ここに。
マス 杏利ちゃんの名前、安心のアンに、草かんむりに利口のリ?
杏利 はい。
マス 赤ちゃんの頃から一緒に寝ていた白いクマのぬいぐるみは?
杏利 いまも一緒に寝てます。
マス 小さい頃のあだ名は?
マス・杏利 あんこたん。
マス あん・・・り・・・?
杏利 お・・・母・・・
レイナレ 目には見えない何かが引き合う。
     本当にあるのかもしれない。
     アンは安らか、穏やか。
     リは香気高い。温和で穏やかにひとを和ませ癒してくれる人間になってほしいと願い、
     マスターがつけた名前。全てを許した人に訪れる奇跡。
みゆ レイ?この場合、目に見えたものが引き合わせたんじゃない?
レイ え?
みゆ コーヒーよ。コーヒーの香りが二人を引き合わせた。
レイ コーヒーアロマ?
みゆ うん。わたしたちもそうでしょ?
レイ あぁ、そうだな。
みゆ マスターが癒されるときがあっても、
レイ いいよね。ね、マスター。
マス ありがとう。
杏利 マスター。コーヒー、おかわりしてもいいですか。
マス えぇ。とびきり美味しいコーヒーを淹れるわね。
杏利 はい!・・・おかあ・・・さん。

レイナレ ここに、一軒の喫茶店がある。
     店の名は「カフェ・セラピスト」。
     店の大きな窓からは海が一望できる風情のある
     喫茶店である。
     さて、今日のお客様は・・・


 音)カランカラン